時計じかけのオレンジ 第21章

「よう、これからどうする?」

おれ、<みなさんの謙譲なる語り手>とおれのドルーグたち3人 ―― レンにリックにブリーだ。このブリー、その名前みたいにボルシー首とグロミーゴロスで、ほんとに牛みたいにアウウウウウウって叫ぶんだ。そのおれたち<コロバ・ミルクバー>に腰すえて、今晩これから何やらかそうかって、相談やってたとこ。やけっぱちに寒くて暗い晩だったが、からっとしてた。周りの連中はミルクにベロセットとかシンセメスクとかドレンクロムなんてベスチを入れて飲んで、この邪悪な現実世界から逃れて、”神様と天使と聖者たち”をおがんだり、モズクん中でいろんな色がバンバン爆発するのを見ていた。よくいわれてるように、モロコん中にナイフを入れて飲んだっていい。そうすりゃ、すごくナイフみたいにシャープな気持ちになっちゃって、なんかきたねえ遊びがしたくなっちゃうんだ。けどこれ、みんな前に話しちゃったよね。

おれたち、ファッションの最高なのを着てた。そのころの最高ってば、すごく幅広のズボンとすごくだぶだぶの黒いぴかぴかの革の上着みたいなのをシャツのえりにスカーフみたいに押し込んでた。今のファッションの最高といえば、ガリバーにブリトバあててみんな剃っちゃうか、両脇んとこだけ残すのがはやりだった。でもノガに履いてるのは昔と同じ ―― リッツオを蹴とばすためのすごくハラショーにでかいブーツ。

「よう、これからどうする?」

おれは4人の中で一番年上で、みんなはおれをやつらのリーダーと見なしてた。でも時々、ブリーがガリバーん中であとがまにつこうと考えてるように思えた。というのも、出陣の時、やつは一番でかいグロミーゴロスでもっておたけびを上げてたから。でもどの計画も<みなさんの謙虚な語り手>が考え出してたし、わが兄弟よ、新聞におれの写真や記事やなんかが載って有名になってたってこともある。それに4人の中じゃはるかに一番いい仕事をしてた。週末の<ナショナル・グラモディスク・アーカイブ>ん時はハラショーにプレティ・ポリーでカーマンがいっぱいになったし、その上、じぶん用にナイスなディスクもたんまりいただいた。

今夜の<コロバ>にはたくさんのベックやプティツァやデボーチカやマルチックが笑ったり飲んだりしてた。そしてやつらの話や着陸船と”ガーガーファラチュカと屠場の防虫剤”やらなんやらクソみたいな話にまじってネッド・アシモタが歌っている”あの日、あの日”のポップディスクがステレオで鳴っているのが聞けたはずだ。カウンターにはナッドサットの最高のファッションした、白く染めたボサボサの長い髪の、パッドを入れたグルーディを1メートルもつき出して、下に白い泡みたいなのが付いたすげえ短いスカートをはいた3人のデボーチカがいた。ブリーがいった。「よう、あそこにお近づきになろうぜ。みんなで3人だ。レンのやつは興味なさそうだしよ。レンのやつは神様と一緒にそっとしといてやろうぜ」
レンがいった。「ヤーブル野郎が。みんなに一人か、一人にみんなってしきたりはどこへいったんだよ、ええ、おい」
急におれはすごくうんざりすると共に気が立って来るのを感じた。で、おれはわめいた。

「出ろ出ろ出ろ!」

「どこへよ?」カエルみたいな顔をしてリックが聞いた。

「おお、外で何に出会うかみてろ」おれはいった。しかしどうも、わが兄弟よ、おれはここ何日もひどくうんざりした、どうしようもない気持ちが続いていた。そしておれはまわりを囲んでる豪華なでかいいすに座ってたチェロベックに向き直ると、酔っぱらってべらべらしゃべってたチェロベックの腹にスコリーくらわしてやった。でも何も感じないんだ、兄弟よ、やつは「カートカートバーチュー、ポッポッポッピコーンの尾っぽはどこにある」なんてしゃべりつつけてるだけだった。というわけで、おれたち冬の夜の中へパッと飛び出した。

おれたちはマルガニタ通りを歩いていったが、この通りをパトロールしてるミリセントはいなかった。すると、おれたちは売店で新聞買って近づいてくるスタリーベックに出くわした。おれはブリーにいった。「よし、ブリーボーイ、なんじの望み通りにしたもう」ここ何日もおれはこうして命令を下し、後ろに立ってやつらがやるのを見ていた。ブリーはやつに飛びかかった。他の2人はやつをつまづかせ、けりを入れ、やつがひっくりかえってどこかへ逃げようとはい回る間、げらげら笑い続けてた。ブリーがいった。

「寒さしのぎにナイスな一杯はどうだ、アレックス?」
おれたちは<デューク・オブ・ニューヨーク>からそれほど遠くないところにいた。他の2人はハイハイハイとうなずいてたが、おれを見ておれがいいというかどうか見てた。おれもうなずき、おれたちはそっちへ向かった。こぎれいな中はスタリープティツァやらシャープやらバブーチカがいて、みなさまも思い出しただろうが、みんないっせいに「こんばんは、お若い衆。神様のお恵みがありますように。すてきなお若い衆ってのはこの方たちだよ」なんて始めやがって、おれたちが「どうだい調子は、娘さんたち」なんていうのを待ってやがる。ブリーがベルを鳴らし、ウェイターがきたねえエプロンで手なんか拭きながらやって来た。「カッターをテーブルに、ドルーギー」ブリーがそういいながら、じゃらじゃらとデングを山盛りにひっぱりだした。「みんなにスコッチと、同じものをばあさんたちにも」するとおれはいった。

「ああ、くたばりやがれ。やつらには自分の金で買わせろよ」おれはなぜそんなことをいったのかわかんないけど、あとになって意味らしいものがわかった。おれのガリバーにひらめいたのは、おれのプレティ・ポリーをじぶんのために取っておきたい、なにかのためにきっちりため込んでおきたいってことだった。ブリーがいった。

「どうしたんだ、ブラッティ?どうしちまったんだアレックス?」

「ああ、くたばりやがれ」おれはいった。「わかんねえ、わかんねえ。わかんねえけどよ、おれたちが苦労して稼いだプレティ・ポリーをそんな風にうっちゃるのは好かねえんだよ。そういうこった」

「稼いだ?」とリック。「稼いだだって?稼ぐことはないさ、なんじもよくご存じのとおり、ドルーギー。取った、それだけさ、取ったってことさ」そしてほんとにグロムキー声で笑った。おれはやつのズービーが1・2本、ハラショーに無くなってるのを見てた。

「ああ」おれはいった。「ちょっと思いついたことがあったんでね」でも、バブーチカたちがみんなただ酒にありつこうと首を長くして見てやがるのが見えたんで、おれはプレチョーをすくめると、ズボンのポケットからカッターやメモやコインなんかをいっしょにひっぱり出して、それをテーブルにバラバラ、チャリンと放り出した。

「スコッチを皆様に、ですね」ボーイがいった。だがおれはどういうわけか、こういった。

「違うよ、ボーイ、おれに小ビールを一つ、だ」レンがいった。

「こりゃどういうことだ」そしておれに熱でもあるんじゃないかとからかうように、ルーカーをおれのガリバーにあててきた。だがそれをおれはワン公みたいにうなってすぐ払いのけた。「よしよし、ドルーグ」やつはいった。「なんじの好きにしろよ」しかしブリーのやつは、おれがポケットからポリーと一緒に取り出してテーブルに置いたものを、あんぐりとロットを開けたまま見ていた。やつはいった。

「ウンウンウン。おれらにはきっとわかりっこないさ」

「返せよ」おれはうめきながらそれをすばやくひっつかんだ。どうしてそんなものを持ってたのか、おれにはなんともいえなかった、兄弟よ。それはおれが古い新聞から切り抜いた、赤ん坊の写真だった。その赤ん坊はモロコみたいなものをロットからたらしてて、みんなを見て、笑ってるみたい。そしてナゴイでその体はまるまるとふとってるんだ。やつらはこの紙切れをおれからうばいとろうとしやがったんで、おれはまたうなってその写真をつかむと、こなごなのちりぢりにして雪みたいに床に落としてやった。ウィスキーが運ばれてきて、バブーチカたちがいった。「ありがとうさんです、お若い衆。神さまのお恵みがありますように。すてきなお若い衆ってのはこの方たちだよ」やらなんやら。やつらの一人がしわだらけの歯のないしなびた口でいった。「金を破るんじゃないよ、若いの。もしいらないんならだったら、おくれよ」あけすけで、ずうずうしい感じ。リックがいった。

「金じゃないよ、ばあさん。赤ん坊の、かわいい、ちいさな、ちんけな、ちっぽけな、写真の切り抜きさ」おれはいった。

「おれはちょっと疲れてるみたいだ。赤ん坊はおめえたちだよ。ばかにして、ニヤニヤして、おめえらができることっていったら、人がやり返せない時、笑いながらひでえ卑怯なトルチョックをくらわすことだけだからな」ブリーはいった。

「なるほどね。おれたち、いつもおまえがそんなことの王様で、先生だと思ってたぜ。調子が悪い、そりゃなんじの問題だよ、ドルーギー」

おれはテーブルの上の、目の前にあるビールのぬれたグラスを見てるうちに、なんだかみんな吐きたくなってきちゃって、そんでおれはアアアアアって、あわだったくそビールをみんな床中にぶちまけた。プティツァの一人がいった。

「無駄は不自由のもと」おれはいった。

「おい、ドルーギー。聞け。今夜はおれはどうも気分がのらない。なんでかどうしてか、わかんねえが、そうなんだ。おまえたち3人は今晩は自分らのやりかたでやるんだ、おれ抜きでな。おれは帰るよ。明日、同じ時間、同じ場所で。明日にはよくなってるといいけどな」

「おお」ブリーがいった。「そりゃほんとに気の毒にな」でもみなさまにはやつのグラジーがキラリと光るのが見えたはずだ。というのは、今や、今宵はやつが仕切るつもりでいるからだ。力、力、みんな力が欲しいんだ。「明日まで見合わせてもいいぜ、」とブリー。「おれたちが思ってること。すなわち、ガガーリン通りの店でちょっとしたクラストやらかす。ちょいとそこでハラショーにやらかそうぜ、ドルーグ、一儲けだ」

「いいや」おれはいった。「見合わせることはない。おまえたちの好きなやり方で進めるんだ。もう ―― 」おれはいった。「おれは帰る」そしておれはイスから立ち上がった。

「で、どこいくんだ?」リックが聞いた。

「わかんねえ」おれがいった。「気の向くまま、気を落ち着けるとするさ」みなさまにはバブーチカたちがおれがそんなふうに出てくのに面食らってるのや、例の不機嫌ではっきりしない、笑ってるマルチックなんかが見えたはずだ。おれはいった。「ああ、くたばれ、くたばっちまえ」そしておれはオッディ・ノッキーで通りへ飛び出した。

外は暗く、風はナイフみたいに肌を刺すようで、ごくごく少しの人しかいなかった。そこには残忍なロズを中に乗せて走り回ってるパトカーがいて、そんで、街角には何人かのとても若いミリセントたちが寒さに耐えて足踏みしながら白い息を冬の大気に吐き出してるのが見えたはずだ、兄弟よ。おれはあんなにたくさんあった、なつかしの暴力やクラストが今や街から消え失せようとしてるように思えた。ロズはつかまえたやつに残酷だ。でもそれはなまいきなナッドサットと、ノズやプリトバ、警棒、銃さえも使ってスコリーになったロズとの戦いになっていた。それにしても、大して気にとめてなかったここ何日かのおれの問題は何だったのか。それはなにかやわらかいものでおれのなかに入り込んでたが、おれにはなぜかわからなかった。最近、おれは何がしたいのかわからなかった。おれはおれが昔聞いたら笑ってたような音楽ですら、マレンキーなすみかで聞くのが好きになってた、兄弟よ。おれはやつらが<リーダー>とか呼んでるロマンチックなマレンキーな歌を聞くのが好きになっていた。歌とピアノだけ、とっても静かで懐かしい感じ。昔ベッドに横になってバイオリンとトロンボーンとケトルドラムの間で聞いてたボルシーオーケストラとは違うんだ。おれの中で何かが起こってて、おれは何かの病気か、それともあの時、やつらがおれのガリバーをむちゃくちゃにし、たぶんおれをほんとにビズムニーにしようしたんじゃないかと思った。

そんなことをずっとガリバーで考えながら、ルーカーをズボンのカーマンに入れて街を歩いてた、兄弟よ、そしてとうとうおれは疲れてきちゃって、またナイスなでかいカップのミルク入り紅茶が欲しくなった。この紅茶のことを考えてると、おれは急に、おれがボルシー火の前でアームチェアにすわって紅茶を飲んでるのが思い浮かんだ。で、何ともへんてこでほんとにおかしなことに、おれは70歳ぐらいの、すごくスタリーチェロベックになってるんだ。というのはおれの髪はすっかり灰色で、頬ひげも同じように灰色なんだ。おれはじぶんが老人になって火の前にすわってるのを見てた。そして突然その絵みたいなのは消えた。とってもへんてこだった。

おれはある一軒の喫茶店の前に来ていた、兄弟よ。そして長い長い窓から店の中が、どんくさそうで気長そうで無表情なリッツォをした、人畜無害な連中であふれかえってるのが見えた。やつらはみんなそこにすわって、ひそひそ話したり、やつらのナイスで無害な紅茶やコーヒーを飲んでた。おれは中に入ると、カウンターに進んでナイスなモロコたっぷりの温かい紅茶を注文すると、テーブルの一つに向かい、そこにすわってそれを飲んだ。このテーブルは若いカップルらしいのがいて、飲んだりフィルタ付きガンを吸ったり、やつらだけでひそひそ話したり笑ったりしてた。おれはべつに気にもせず飲み続けようとした時、まるで夢かマボロシのようなことがおれに起ころうとしていた。おれが見たテーブルにいるチェロベックといっしょにいるデボーチカはほんとにハラショーだったが、あんたが押し倒すかなんかして、あの懐かしのイン・アウトを食らわすようなたぐいじゃなかった。でもハラショーなプロットとリッツォとにこやかなロットとほんとにきれいなボロスやらなんやらをしてた。それから、女と一緒にいたガリバーに帽子をのせたベックは、おれからリッツオをそらすと、ここの壁にかかってる大きな時計を見た。それからおれはやつを見て、やつもおれを見た。そいつはピートだった、ジョージーとディムとピートとおれがいた、あのころのおれの3人のドルーグの一人だ。ピートは19歳よりも年上ってことはないはずなんだけど、それよりも大人びて見えて、口ひげなんかはやしちゃって、無難なスーツと帽子というかっこうだった。おれはいった。

「おいおいおい、ドルーギー、どうしたんだ?すげえ、すげえ久しぶりだな」やつはいった。

「アレックスか、ええ?」

「ほかにだれがいるかよ」おれはいった。「過ぎ去りしあのすばらしき日々以来だな。ところで、かわいそうなジョージー、やつらが話してくれたよ、は今や土の中、ディムの野郎はひでえミリセント、そしてここになんじがいて、おれがいる。さて、なんじいかなるニュースを持ちたるか?ドルーギー?」

「ねえ、彼の話し方って変じゃない?」デボーチカがくすくす笑いながらいった。

「彼は」ピートがデボーチカにいった。「古い友達だ。名前はアレックス。さて ―― 」やつはおれにいった。「僕の妻を紹介していいかな?」

おれはぽかんとロットを開けた。「妻?」おれは息が止まりそうだった。「妻妻妻?そんな、できっこない。なんじ、結婚には若すぎしや?ドルーグ。ありえない、不可能だ」

このピートの妻(ありえない、ありえない)というデボーチカはまたくすくす笑いながらピートにいった。「あなたもこんなしゃべり方してたの?」

「ふむ」とピートはいって、ほほえんだようだった。「僕もじき20歳だ。結婚してもいい頃だし、もう結婚して2ヶ月だ。君が一番若くて一番でしゃばりだったよな、覚えてるかい?」

「ええと」おれはまだぽかんと大口開けてた。「今は違うよ、ドルーギー。ピートは結婚した。よしよしよし」

「ちいさなアパートを借りたんだ」ピートがいった。「僕はごく安い給料を国の船舶保険会社で稼いでるよ。でも今に楽になるだろうさ。それにジョージナがここに ―― 」

「なんて名前だって?」おれはロットをバカみたいに開けたままいった。ピートの妻(妻だとさ、兄弟)はまたくすくす笑った。

「ジョージナだよ」ピートがいった。「ジョージナも働いてるんだ。タイピング ―― 知ってるだろ。まあなんとかうまくやってるよ」おれにはできなかった、兄弟よ、やつからグラジーを離すことが。やつは今や大人びた声やなんかでもって大人になった。「君は」ピートがいった。「時々僕らを見かけるだろうね。君はまだ、」やつはいった。「すごく若く見える。ひどい経験をしたにもかかわらずね。あ、そうそう、あれはみんな読んだよ。でも、もちろん、君はまだ十分若い」

「18」おれはいった。「になったばかりだ」

「18歳だって、ええ?」ピートがいった。「もういい年だな。さてさてさて。さあ、」ピートがいった。「もう行かなくちゃ」そしてやつはやつのジョージナに愛しいまなざしを投げかけると彼女のルーカーを握りしめ、彼女は振り返ってもう一方のルーカーをあずけた、わが兄弟よ。「そうだ」ピートがふり返りながらおれにいった。「僕らはグレッグのうちのパーティに出かけるところなんだ」

「グレッグ?」

「おっと、もちろん」ピートがいった。「君はグレッグを知らないよね?グレッグは君の後に入ったんだ。君がいない間、グレッグが入ってきたのさ。彼はささやかなパーティを催してるんだ。知ってるだろ、ワインを飲んだり、言葉遊びのゲームをしたり。でもいいもんだよ、楽しいしね、知ってるだろう。無害さ。僕の言ってることがわかるならね」

「ああ」おれはいった。「無害。そうそう、ハラショーなもんだよ」このジョージナというデボーチカはおれのスロボにまたくすくす笑った。そして二人はグレッグとやら ―― どんなやつか知らないが ―― と彼らのくせえ言葉遊びをしに去っていった。おれはミルク入り紅茶、それはもう冷たくなってたが、と共にオッディ・ノッキーでとり残され、驚きながら考えてた。

たぶんそうなんだろう、おれは考え続けた。たぶん、おれはおれが先導してやってきたようなことをやるにはもう年を取りすぎてるんだろう、兄弟。おれは今や18になった、なったばっかりだ。18歳は若くなかったんだ。18歳のボルフガング・アマデウス(*1)はコンチェルトや交響曲、オペラやオラトリオやらなんやらクソみたいな ―― いやいやクソじゃない ―― 天国の音楽だ ―― を書いた。それに<真夏の夜の夢>の序曲のフェリックス・Mがいる。他にもいる、ベンジー・ブリトなんか彼の最高の詩は全部15歳の時に作ってるんだ、兄弟よ。アーサー、が彼の名前だ(*2) 。18歳なんてぜんぜん若くない。じゃあおれはどうすりゃよかったんだ?

喫茶店で飲んだ後、暗いバカ寒い冬の通りを歩きながら、おれは雑誌に載ってる漫画みたいな空想を続けた。<みなさまの謙虚な語り手>アレックスが、仕事から家に帰って来て、熱いうまそうな夕食が載った皿にむかうと、プティツァが親しげに、うれしそうにおかえりとか言ってるんだ。でもおれには彼女をぜんぶハラショーに見ることができないんだ、兄弟よ、おれにはそれが誰になるか思いつかなかったんだ。でもふとおれに強烈な考えが浮かんだ。というのはおれは、暖炉が燃え温かい夕食がテーブルに載る部屋から隣の部屋に入ったなら、そこでおれはおれが本当に望んでいたものを見つける。今や全ては結びついた。雑誌の切り抜き、ピートとの出会い。それは、向こうの部屋ではおれの息子がグーグーグーって言いながら寝ているんだ。そうだそうだそうだ、兄弟、おれの息子だ。今やおれはおれのプロットの中にあるぽっかりと空いた穴を感じた。おれ自身、すごくびっくりしながら。おれは何が起こったかわかった、わが兄弟よ。おれは成長したらしい。

そうだそうだそうだ、そうだったんだ。若い時なんて終わっちまうものなんだ、そのとおりだ。でも若い時なんて動物の生命の一過程に過ぎないんだ。いや、動物の生命というそれだけじゃなくて、まるで道ばたで売られているのを見かけるようなマレンキーなおもちゃみたいなもんで、バネが入ってるブリキ製の小さなチェロベックみたいなやつで、外側のハンドルをジージージーって回して放すと動き出すんだ、まるで歩くみたいに。おお、わが兄弟よ。でも、そいつはまっすぐ歩いて、まっすぐ何かにぶつかってバンバンって音を立てるんだ。でもそいつはそんなやってることを止められないんだ。若いってことはそんなマレンキーな機械の一つみたいなものなんだ。

息子、わが息子よ。おれが息子をもった時、おれはやつがよく理解できる年になったらみんな全て話してやりたい。でもやつは理解しないか、そもそも理解しようとしないだろう、ってことを知ってる。しかもおれがやってきたようなベスチもみんなやるだろう、そう、ひょっとしたらあのニャーニャー鳴いてるコットやコシュカに囲まれたスタリーばばあを殺すことでさえやるだろうし、そしておれはやつを止めることはできないだろうよ。それからやつもまたやつの息子を止めることはできないんだ、兄弟。そしてそれは世界の終わりみたいな時まで続くだろう。繰り返し繰り返し繰り返し、ボルシー巨人みたいなチェロベックか、懐かしのボッグ自身が(コロバ・ミルクバーのご好意により)くさい、きたねえオレンジをやつのでかいルーカーでくるくるくるくる回すみたいに。

でもまずは、兄弟よ、この息子の母親になるだろうデボチカか誰かを見つけることだ。明日にでも始めなきゃいけないだろうな、おれは考え続けた。新しいことを始めるんだ。おれが始めなきゃいけない、新しい章の始まりを。

これが<これからどうするか>だ、兄弟よ、というわけでこの物語もだいたい終わりに近づいたようだ。あんたはみなさまのかわいいドルーグと一緒にどこにでもいた。彼と共に苦しみ、ボッグが作った最もグラズニーな野郎どもを見たんだ。みなさまのドルーグ、アレックスに起こった全てを見たんだ。そして全てはおれが若い時のものだ。でも今、おれはこの物語を終わらせるんだ、兄弟。おれは若くない、もはや、ちっとも。なんてこった。アレックスは成長した、おお、そうだ。

けどおれはどこへ行こう、兄弟よ。オッディノッキーで、あんたが行けないとこへ。未来とはきれいな花みたいなもので、くせえ地球は回り続けてその上には星と月があるんだ。そしてみなさまのかわいいドルーグ、アレックスはオッディ・ノッキーで友達みたいななんやらを探すんだ。 恐ろしい、グラズニーなくせえ世界でだ。全く、おお、わが兄弟よ。さて、そろそろみなさまのかわいいドルーグからいとまごいだ。そしてこの物語の中のその他大勢には深遠な唇の音楽のシュームを、ブルルルルル。おれのシャリーにキスでもしやがれ。でも、わが兄弟よ、時々はなんじのかわいいアレックスがいたことを思い出してくれよな。アーメン。くそ久しく。(*3)







*1 モーツァルト。知ってる人は知っていると思いますが一応。

*2 ベンジー・ブリト(Benjamin Britten)は Arthur Benjamin にピアノを習ったのであって、ここでいう同一人物ではないようです。

*3 原文は”Amen. And all that cal.”。”and all that”は挨拶などで最後に付ける定型句。日本語の同様な定型句に”幾久しく”がありますが、原文末尾の cal は shit に相当し、普通の挨拶にしたのでは(アレックスの最後の言葉にしては)少々物足りない。腐心の結果、こう訳しました。
(こういう言い訳じみた注は翻訳作業では極力抑えなければいけないものだと思いますが。最後までお読みいただきありがとうございました。幾久しく)